東京大学先端科学技術研究センター バリアフリー分野

東京大学 福島智研究室

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初等中等教育における基礎的環境整備・合理的配慮に関する東京都への提言

2019年10月02日

初等中等教育における基礎的環境整備・合理的配慮に関する東京都への提言

 

東京大学先端科学技術研究センター
バリアフリー分野 教授 福島智
当事者研究分野 准教授 熊谷晋一郎

 

 私たちは障害のある子どもたちの臨床教育に取り組む団体と、共同研究を進めてきました。その活動を通して知り合った、車椅子に乗った中学3年生の生徒がいます。
 先般、当該生徒は両親とともに、第1志望の私立高校に見学に言った際に、当該高校の教員から、「本校は建物が古く、今まで車椅子の子は受け入れたことが無いために、以前見学に来られた車椅子の方も皆、出願をやめている状況があり、他の学校も見学することを勧める」という趣旨の説明を受けたという事例がありました。この説明を受けて、当該生徒は第一志望の高校への進学をあきらめました。
 このケースにおける高校側の対応には、障害があるからという理由で出願を拒否することは不当な差別的取扱いに当たり、「障害者差別解消法」に基づき避けるべき義務があること、また東京都においては「東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例(→リンク)」に基づき、都立・私立の別なく、基礎的環境整備と合理的配慮を通じて入学後の機会均等を目指すこともまた義務付けられているということからして、問題があると言わざるを得ません。そこで、2019年9月3日付で、東京都あてに、以下の2点に関して伺い書を提出いたしました。

 

(1)車いすの生徒にとってバリアフリー化が十分でない学校に、車いすの生徒が合格した場合、施設改修などについて、東京都からの財政的助成はなされるでしょうか。全額都が負担ということでなく、当該学校との適切な割合での助成でも良いかと存じます。あるいは、これは今後の検討課題になるでしょうか。

 

(2)東京都からの行政指導をおこなっている都内の私立高校において、車椅子の生徒の受け入れ可否の状況について、実情の調査は行われておりますでしょうか。あるいは、その予定はありますでしょうか。

 

 この伺い書に対して、2019年9月11日付で東京都から、上記2点の伺いに対応する形で、以下のような回答書が返って来ました。

 

(1)私立学校にとって、施設改修等によるバリアフリー化や機器の導入を進め、多様な生徒を受け入れることができる環境を整えることは、魅力ある学校づくりという観点でも重要です。一方、合理的配慮の提供を超えた環境の整備まで行うかどうかは、各学校が費用負担も含めた経営判断により決定し、実施することとなります。

 

(2)障害のある生徒の受入れにつきましては、個々の生徒の事情、学校の体制等によっても受入れの可否は異なってきます。車椅子を使用する生徒に関しても、障害の種類や程度は多様であり、学校がその受入れ可否を調査上で区分することは困難なため、調査は行っておりません。ただし、個別の事例ごとに、生徒側と学校側の建設的な対話を通じて、問題の解決を図っていくことが必要です。

 

上記の回答書については主に、以下の2点の問題点があると考えられます。

 

1)基礎的環境整備は合理的配慮を超えたものではなく合理的配慮の基礎となるものであり、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内でそれぞれ行うものであるという点の認識不足

 

2.)障害を理由とした「受け入れ拒否」が、合理的配慮の不提供のレベルではなく、不当な差別的取り扱いにあたるという点の認識不足

 

以下、それぞれについて説明します。

 

1)基礎的環境整備は合理的配慮を超えたものではなく合理的配慮の基礎となるものであり、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内でそれぞれ行うものであるという点の認識不足

 

質問の1つ目に対して、東京都は以下のように返答しています。

 

「福島様のお手紙の2点のご質問のうち、1点目についてですが、私立学校にとって、施設改修等によるバリアフリー化や機器の導入を進め、多様な生徒を受け入れることができる環境を整えることは、魅力ある学校づくりという観点でも重要です。一方、合理的配慮の提供を超えた環境の整備まで行うかどうかは、各学校が費用負担も含めた経営判断により決定し、実施することとなります。」

 

ここでは、「施設改修等によるバリアフリー化や機器の導入を進め、多様な生徒を受け入れることができる環境を整えること」を、合理的配慮の提供を超えたものであり、各学校の経営判断にゆだねられるべきものという認識が示されています。しかし、「施設改修等によるバリアフリー化や機器の導入を進め、多様な生徒を受け入れることができる環境を整えること」は、基礎的環境整備と呼ばれ、合理的配慮を「超えたもの」ではなく、合理的配慮の「基礎となるもの」と捉えるのが一般的です。とりわけ、車椅子でのアクセシビリティを保障する環境整備は、基礎的環境整備の範疇と考えられます。

 例えば、平成24年7月13日中央教育審議会・初等中等教育分科会・初等中等教育分科会(第80回)配付資料:資料1 特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告1・3.障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備(→リンク)には、以下のような記載があります。

 

障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で、教育環境の整備をそれぞれ行う。これらは、「合理的配慮」の基礎となる環境整備であり、それを「基礎的環境整備」と呼ぶこととする。これらの環境整備は、その整備の状況により異なるところではあるが、これらを基に、設置者及び学校が、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供する。

 

 ここでのポイントは、基礎的環境整備は学校の経営判断ではなく、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で行うものであるという点です。

 それに対して合理的配慮は、設置者・学校と本人・保護者との合意形成を通じて行うものです。同資料の中では合理的配慮について、以下のように記載されています。

 

「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものであり、設置者・学校と本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ、「合理的配慮」の観点を踏まえ、「合理的配慮」について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが望ましい。なお、設置者・学校と本人・保護者の意見が一致しない場合には、「教育支援委員会」(仮称)の助言等により、その解決を図ることが望ましい。

 

合理的配慮を超えて、各学校が費用負担も含めた経営判断により決定し、実施する措置は、基礎的環境整備ではなく、「積極的是正措置」です。都立(私立)高校の校舎において、車椅子でのアクセシビリティを保障することは、明らかに、積極的是正措置の範疇ではなく、国や自治体が主導して行うべき基礎的環境整備の範疇であると考えられます。

本回答書は、基礎的環境整備、合理的配慮、積極的是正措置という3つの区別を混同している点で問題があると言わざるを得ません。

 

2)障害を理由とした「受け入れ拒否」が、合理的配慮不提供のレベルではなく、不当な差別的取り扱いにあたるという点の認識不足

 

質問の2つ目に対して、東京都は以下のように返答しています。

 

「障害のある生徒の受入れにつきましては、個々の生徒の事情、学校の体制等によっても受入れの可否は異なってきます。車椅子を使用する生徒に関しても、障害の種類や程度は多様であり、学校がその受入れ可否を調査上で区分することは困難なため、調査は行っておりません。ただし、個別の事例ごとに、生徒側と学校側の建設的な対話を通じて、問題の解決を図っていくことが必要です。」

 

この記載では、障害のある生徒の受入可否の判断において、合理的配慮の範疇で行われる建設的対話を通じて進めるという認識が示されていますが、受入可否は合理的配慮の範疇ではなく、不当な差別的取り扱いの範疇の問題と考えられます。

実際、文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針(→リンク) の第2 不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方・別紙1には、「1 不当な差別的取扱いに当たり得る具体例」について、以下のような記載があります。

 

障害のみを理由として、以下の取扱いを行うこと。

○学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、窓口対応を拒否し、又は対応の順序を後回しにすること。

○資料の送付、パンフレットの提供、説明会やシンポジウムへの出席等を拒むこと。

○社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等やそれらのサービスの利用をさせないこと。

○学校への入学の出願の受理、受験、入学、授業等の受講や研究指導、実習等校外教育活動、入寮、式典参加を拒むことや、これらを拒まない代わりとして正当な理由のない条件を付すこと。

○試験等において合理的配慮の提供を受けたことを理由に、当該試験等の結果を学習評価の対象から除外したり、評価において差を付けたりすること。

 

 上記の記述からも、車椅子にのった障害者であることを理由として出願を拒むことは、明らかに不当な差別的取り扱いに相当します。むろん、見学先で担当した教員は、出願を拒んだわけではないかもしれませんが、当該生徒の親御さんの下記の記載からは、教員の不用意な発言が、事実上、出願拒否の効果を発揮したことが明らかであり、十分な指導が必要な案件であると考えられます。

 

 以上を踏まえまして、東京都に対して以下の2点を提言したいと思います。

 

提言1:車いすの生徒にアクセス可能な小学校・中学校・高等学校の基礎的環境整備について、東京都からの財政的助成を行う。

 

提言2:東京都からの行政指導をおこなっている都内の私立高校において、車椅子の生徒の受け入れ可否の状況について、実情の調査を行う。

 

 

以上

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